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山川選手のFAを契機に発生した人的補償問題解決のために「フリーエージェント規約」の改善が必要

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こんにちは。フリーエージェント規約を熟読したtthgです。

今日は山川選手の人的補償問題に関して、「フリーエージェント規約」(以下「規約」とする。)に基づいて考察したい。本件については何かと「ルール違反」と言われるが、「何がルール違反」なのかはイマイチ不明確である。そこで今回そもそものルールが何かを確認し、そのルールに基づき何が問題なのかを考えてみた。結論から言うと、ルールが曖昧過ぎるのが根本的な問題であり、規約の改善が必要というのがtthgの結論である。主な内容は以下の通り。

1.今回争点となる規約の条文

2.ライオンズ視点で規約違反(の疑い)のある行為

 2-1.指名選手の変更

 2-2.プロテクトリスト外からの指名

 2-3.プロテクトリストの漏洩

3.ホークス視点で規約違反(の疑い)のある行為

 3-1.指名選手変更の申し出

 3-2.プロテクト内の選手を人的補償として放出する事の是非

4.和田投手の引退示唆(をしたされる)について

5.規約の改善案

1.今回争点となる規約の条文

まず、規約のうち今回の人的補償に関する部分で重要な条文は以下の二つである。最初は第10条第3項(1)号アに以下のようにある。

選手による補償

旧球団が,選手による補償を求める場合は,獲得球団が保有する支配下選手のうち,外国人選手及び獲得球団が任意に定めた28名を除いた選手名簿から旧球団が当該FA宣言選手1名につき各1名を選び,獲得することができる。前記の選手名簿の旧球団への提示はFA宣言選手との選手契約締結がコミッショナーから公示された日から2週間以内に行う。前記の選手名簿の旧球団への提示はFA宣言選手との選手契約締結がコミッショナーから公示された日から2週間以内に行う。(以下略)

日本プロ野球選手会OFFICIAL SITE,公認代理人制度,野球規約・統一契約書,フリーエージェント規約,2009年度版より引用,2024年1月20日最終アクセス

次に第10条第7項に以下のようにある。

本条3項及び4項の規定により,旧球団から指名された獲得球団の選手は,その指名による移籍を拒否することはできない。当該選手が,移籍を拒否した場合は,同選手は資格停止選手となり,旧球団への補償については,本条第3項(2)号又は本条第4項(2)号を準用する。

日本プロ野球選手会OFFICIAL SITE,公認代理人制度,野球規約・統一契約書,フリーエージェント規約,2009年度版より引用,2024年1月20日最終アクセス

これら条文について以下「ライオンズ」「ホークス」「和田投手」の三つの視点で規約に違反する行為があり得るのかという事を検討したい。

2.ライオンズ視点で規約違反(の疑い)のある行為

2-1.指名選手の変更

最初に(報道されている中で)ライオンズの規約違反の可能性のある行為は人的補償としてホークスから獲得する選手を和田投手から甲斐野投手に変更した(とされる)という点だが、「第10条第3項(1)号ア」は「外国人選手及び獲得球団が任意に定めた28名を除いた選手名簿から旧球団が当該FA宣言選手1名につき各1名を選び,獲得することができる。」と記載しているだけである。規約は、「一度指名した選手を変更してはいけない」とは書かれていない。それ故、指名した選手を変更したというだけでは規約違反とは言い難い。(規約上、指名選手を変更しても「FA宣言選手1名につき各1名を選び,獲得」という条件を破るわけではない。)

2-2.プロテクトリスト外からの指名

問題となり得るのはホークスが規約に従い提示した「外国人選手及び獲得球団が任意に定めた28名を除いた選手名簿」(以下「プロテクトリスト」とする。)外の選手を獲得した場合である。具体的には甲斐野投手がホークスが当初提示したプロテクトリストから漏れていた場合である。これは形式的には規約違反と言える。ただし、人的補償という制度趣旨を考えるとこれを実質的な規約違反と考えるのは疑問である。人的補償は戦力均衡のために旧球団に対して戦力を差し出すという制度である。プロテクトリスト内の選手を差し出せはプロテクト外の選手よりも手厚い補償をしたと評価できる。それは「人的補償」の制度趣旨をより手厚く実行したと評価されるべきであり、新球団がそれを率先して実行することを形式的な規約違反でNGを出すのはこの規約の趣旨に沿っているとは言い難い。また、報道されているように和田投手に引退の意思があったとすれば、ライオンズが指名を強行した場合は金銭補償になっていた。金銭補償よりも「プロテクト内の選手による補償」のほうがライオンズに取って圧倒的に手厚い補償であるという点も加味するべきである。

2-3.プロテクトリストの漏洩

次に、ライオンズが問題視されるとすれば、「プロテクト情報を漏らした」という疑惑である。この点についてはライオンズ側から漏れたのかホークス側から漏れたのか真偽不明である。ホークス側が和田投手と色々交渉している過程で記者が感づいたというケースも想定されるので、断定はできない。ただし、仮にライオンズ側がリークしたとして、規約上なにがしかの罰則が設けられていないので規約上の咎めは受けない。また、そもそも規約上プロテクト外の選手は旧球団が自由に決められるのであり、ホークス側に拒否権はない。ライオンズ側が和田投手を指名する時点で本気獲る意思があったとすれば、数日後に実現する移籍の情報であり、プロテクトリストの漏洩という趣旨のものではない。結果的に別の選手が指名され、「和田投手のプロテクトリスト外」という情報が外に出たが、それはホークス側がネゴシエーションしてきたから発生したのであり、ライオンズ側の責任というには疑問である。

ただし、ライオンズ側が初めから「プロテクト内」の選手を引き出すために、「和田投手を獲るぞ」という「ブラフ」をしかけたという事であれば、規約上の責任はないとしても、道徳的な責めは受けるべきだろう。また、和田投手以外にも複数の選手がプロテクト情報が報道されているが、そうした情報を漏らしたとすれば、その点についても同様である。

3.ホークス視点で規約違反(の疑い)のある行為

3-1.指名選手変更の申し出

ホークスについては、「人的補償の対象となる選手を和田投手以外にして欲しいと願い出た(と報道されている)行為」が焦点になる。仮にそれが真実だったとして、規約上は変更を申し出ただけでは、違反はない。それはライオンズと同様である。変更をお願いしただけでそれを受ける受けないはライオンズの自由なのだから、ライオンズの権利を侵害したという事にはならない。

ただし、「和田投手の引退の意思」をちらつかせて、プロテクトリスト外の他の選手に変更するよう迫ったあという事であれば、人的補償の制度趣旨を没却し「実質的な29人目のプロテクト」を実行している事になるので問題ではある。ただし、これも規約上の何かに抵触しているわけではないのであくまでも道義的な責任に過ぎない。上記規約は旧球団に「外国人選手及び獲得球団が任意に定めた28名を除いた選手名簿から旧球団が当該FA宣言選手1名につき各1名を選」ぶ権利を認めている。「実質的な29人目のプロテクト」はこの権利を侵害している。それ故規約違反と考えられる。ただし、規約にはこの違反行為に対する罰則はない。(Xにてsinndarさんの指摘を受けて2024年1月24日追記)

3-2.プロテクト内の選手を人的補償として放出する事の是非

次に「プロテクト内」の選手を差し出したとされる件について。この点について、プロテクトリストの変更が認められるかが、焦点になる。プロテクトリストの変更自体は規約上明確ではないが、リストの提示について「FA宣言選手との選手契約締結がコミッショナーから公示された日から2週間以内に行う。」という制限がある。それ故、今回のケースではこの制限を形式的に破っていると言える。

しかし、それはライオンズの項で書いたように、「規約に定める補償を超えて補償する」というする行為であり、人的補償の制度趣旨を鑑みるとむしろ、肯定されるべきことである。少なくとも、規約の形式的にはOKである(Xにてsinndarさんの指摘を受けて2024年1月24日修正)「プロテクト外の他の選手」に変更するより実質的に手厚い補償をしているのであり、筋が通っている。この場合、ホークスはプロテクト戦略に失敗し、「プロテクトしたかった選手」を失うという犠牲を払って補償を申し出て、ライオンズも「和田投手の引退リスクを回避して補強した」のだから文句もない。(個人的に甲斐野投手がプロテクト内」であった場合は怪我のリスクが軽減されるので、「プロテクト内の甲斐野投手」の方が「プロテクト外の甲斐野投手」よりも価値が高いと考える。甲斐野投手の怪我リスクについては詳しくは下記の記事を参照されたい。)

4.和田投手の引退示唆(をしたされる)について

和田投手については、「引退を示唆して移籍を回避した」という疑惑がある。この点についてまず、考えなくてはいけないのが「本当に和田投手は引退を示唆したのか」という点である。仮に和田投手が指名された時点でホークスが「忖度」して和田投手に引退の意思を確認もせずにライオンズ側と交渉したのであれば、和田投手の責任はないに等しい。次に、実際に引退示唆があったとしてどうか。引退の示唆だけでは規約上の形式的な問題は生じない。規約はあくまでも「本条3項及び4項の規定により,旧球団から指名された獲得球団の選手は,その指名による移籍を拒否することはできない。」とあるだけである。この条文で言うところ「旧球団から指名」については「本条3項及び4項」によるわけだが、この中身は上述のとおり「指名を変更する」という事の可否は全く記載されておらず、ライオンズとホークスの話し合いの末「指名選手を変更する」としても規約上の問題は生じない。本件については最終的に和田投手は指名されなかったわけなので、「引退の義務」は規約上生じない。

ただし、「引退の示唆による指名の変更」は、実質的に規約第10条第7項に定めるところの「移籍を拒否」に該当すると解されるべきであり、制度趣旨を没却する行為という評価は否めない。その意味で言うと道義的な責任の発生は避けられないところである。

5.規約の改善案

以上のように、本件に関わる疑惑の多くは規約の想定の範囲を超えているものである。形式的に解釈すると制度趣旨を没却するような事案が複数存在する。これは明らかに規約の不備が多い。これらを解消するためにはNPBが介入する制度にすべきである。制度で気には図らずも別件でtthgが提案したプロテクトリストのNPBへの供託が有効である。(供託についてはこちらの記事を参照されたい。)そのリストからの指名であれば、裏で交渉する余地がなくなる。ただし、当該選手の移籍拒否の場合に金銭補償のみになるというのは実質的な「補償減」になるので、頂けない。その場合は旧球団は別の選手を指名できるようにすべきである。

ただし、この場合に投手のプロテクトリストから選ぶのでは「実質的な29人目のプロテクト」になるので、現状のプロテクトリストから獲得球団が更に1名プロテクトを解除してから旧球団が再指名するようにしたい。その代わり、移籍拒否選手の引退はなしで良い。ただし、移籍拒否が乱発しないよう、拒否の場合は次シーズンの公式戦1月出場停止ぐらいのペナルティは儲けたい。

本日も最後までお読み頂きありがとうございました。

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