ライオンズの「自社鉄道+首都圏から遠い自前球場」は黄金時代中期までは極めて精巧なビジネスモデルだった。(2022年1月9日追記あり。)

本記事は記事の末尾に追記があります。最後の部分までお読み頂けたら幸いです。

今晩は。ライオンズの歴史の勉強にいそしんだtthgです。

前回の記事で黄金時代の遺産という話を書いたが、その関連でライオンズのメットライフ開催時の鉄道の増収分はどのくらいあるのかという点が気になって調べてみた。まず、下記のwikipedia記載の西武球場前駅の1日平均の乗車人数は
2019年:6,872人
2020年:2,210人
*2020年は乗降人数しか記載がないので、乗車人数を2で割って算出


なお、Wikipediaの数値は下記の埼玉県及び西武鉄道の公式ページの記載にも一致する。

この6,872人と2,210人の差分の4,463人はおおよそライオンズの試合開催観客動員数がコロナによって減った分と推定される。ただし、他のイベントの減分も勘案して、仮にこの内8割がライオンズの試合関連の乗車人数と推定すると、おおよそ以下の人数がライオンズの試合関連で減った考えられる。

4,463人×365日×0.8=1,361,450人




それに対して2019年と2020年のライオンズの観客動員は以下のようになっている。

2019年:1,821,519人
2020年:300,120人
2019-2020減少分:1,521,399人

*数字は以下のNPBのサイトより

上述の2019-2020におけるライオンズ関連の西武球場前駅の乗降人数の減少分1,361,450人を実際の観客動員の減少分1,521,399人で割ると以下のようになる。

1,361,450人÷1,521,399人≒0.89

この数式の意味はメットライフに入場する約9割の客は西武鉄道の利用があるという事を意味する。なぜこの数値が必要だったのかというと、各年度の観客動員からおおよその鉄道収益を計算するためである。

上記を前提として、上述のNPBの公式発表の1986年(黄金時代中期、森政権誕生の年)のライオンズの観客動員は「1,661,000人」ただし、この時代は観客動員が概算で計算されていて水増しが横行したとされている。それゆえ、この人数は正確ではない。2005年に実人数を一人単位で発表するようになって、各球団の発表人数は大幅に変わったが、ライオンズは約50万人ほど減っている。2004-2005年の差分は一番多く差が出ているホークスの約95万人からマリーンズの約25万人まで幅が広い(オリックスは近鉄の合併があったので参考外)ライオンズの50万はほぼ中間点である事や、2004シーズンは日本一シーズンで動員も多かった年からの減なので水増しは最大50万と見積もって言いだろう。そう考えると1986年の実観客動員は下記のようになる。

1,661,000人-500,000=1,121,000人

このうち、9割が鉄道利用とすると

1,121,000人×0.9≒1,008,900人

が鉄道を利用した事になる。これらの人がどの程度の金額を西武鉄道に落としたかという事が次に問題になる。まず、狭山線方面は西所沢駅まではほぼ全員おりないのでここまでは全員乗ると仮定する。山口線(レオライナー)方面は多摩湖までは全員乗っている。また多摩湖でも多摩湖線に乗る人が多数で最初の乗り換え駅である萩山までは乗るという想定してよい。もちろん誤差もあるが、西所沢や萩山以降も西武線という人も一定数いるとすれば萩山及び西所沢間の往復までは上記の人は鉄道に課金すると考えてよい。定期利用については西武球場前を仕事場にしている人以外の定期利用はなく、(例えば保谷駅に自宅のある人で東京方面に定期を持っている人でも球場方面は保谷→西武球場前の往復は課金が必要)西所沢、萩山以降の西武線利用で課金する人の分でおつりがくる。

西武球場前と西所沢、萩山はいずれも現在ICで178円区間だが、1986年当時は下記の通り110円区間だった。その往復なので一人当たりの課金は220円

子供料金は2割として考え推定すると1986年当時試合開催による鉄道収益の増加は以下のようになる。

1,008,900人×0.8×220円=177,566,400円
1,008,900人×0.2×110円=22,195,800円
総計199,762,200円

つまり、当時でも約2億の鉄道収入が試合の収益の他に西武グループに落ちていた。



一方で、1986年の選手年俸と監督コーチの年俸を合わせても6億程度にしかならない。これはつまり、鉄道収入を加味すると実質4億程度しか年俸に必要としていないという意味になる。更に言うとライオンズは他球団と違い球場が自前だったので球場使用料の問題もなかった。これは当時は圧倒的に経費負担が少なかった事を意味する。しかもこれは森監督の就任年で黄金時代後期の始まりの年であり、既に何回も優勝していて年俸高騰の要素があったにも関わらずである。

しかし、これが94年の森監督退任年の同じ数字を出すと29.3憶になる。鉄道のほうは、西武球場前と西所沢、萩山間の片道が20円増加しただけあり、観客動員も横ばいなのでほぼ変わらない。2億程度の鉄道収益はこの年の時点で大きくその存在感を低下させることとなった。

ちなみに、2021年はというと、下記のサイトの数字を合計すると監督、コーチを除いて約30憶。

こうしてみると、黄金時代中期までは、鉄道+自前球場は大きなメリットであった。特に「首都圏から遠い」というデメリットも試合当日の鉄道収入が選手・首脳陣の年俸総額の1/3もカバーするのだから、問題にならない。平日ガラガラで「外野芝生席は芝生保護のため夏休みや開幕戦、GWを除いて閉鎖」でも全然かまわなかった。むしろ鉄道利用料金をチケットにプラスして徴収するためには鉄道以外の交通手段が遮断されている狭山丘陵は絶好の立地だった。(友の会の子供無料でも、鉄道料金は取りはぐれない。これを考慮すると友の会無料という気前の良さも十分計算されていたという事になろう。)

それが、選手年俸が5倍に膨れ上がって以降は鉄道料金のインパクトが相対的に落ちたものだからこの経営が成り立たなくなった。むしろホークスのように平日も球場を満員にして(鉄道料金に比べて)高いチケット代や飲食で回収しようとした時に「平日ナイター」への動員が難しい狭山丘陵の立地はマイナスでしかなくなった。この差は決定的に大きい。

現在の視点で考えると「なんでそんなに遠いところに球場を作ったんだ?」となるわけだが、こうしてみると当時的には非常に良くできたビジネスモデルだったのである。それが足かせになる現状は厳しいが、歴史的経緯を踏まえるとそれは一概に否定はできない。

本日も最後までお読み頂きありがとうございました。

2021年1月9追記。

本記事についてtthgの事実誤認についてsinndarさんから下記のご指摘を頂いたので追記します。ご指摘の趣旨としては「ライオンズの試合で鉄道収益を上げるために西武球場(現メットライフドーム)の立地を決めたのではなく、所沢一帯を中心とした都市開発という大きな目標の一環として西武球場の立地は決められた」という事です。そういう意味では、球団経営のために鉄道収入を利用しようとした」というtthgの見解は的外れですので撤回します。ただ、当時の年俸水準からすると鉄道収入を考えると球団経営に財務的なアドバンテージがあったというのは事実なのて、その部分に置いては今と経営環境が違うという趣旨の部分は当たっていると思うので記事はこのまま残します。

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